大手町の森

Aman Tokyo - The Cafe

ホテルジャーナリスト せきねきょうこ

大手町の森とアマン東京

高層ビル群の谷間に力強く育つ‘大手町の森’は、私たちの想像を遥かに超える見えないパワーを宿し、このエリアの社会的な機能や環境保全、都会の森に息づく生物多様性にも関わるなど、自然の森が果たす役割を背負った若い森です。私たちはその森の傍を歩くだけで、木々の放つ香りに心が整い癒されるのも不思議ではありません。都会のオアシスとして愛され、ビルの麓に力強く広がる森は、自然との共存を尊ぶ‘アマン東京’の大切な礎でもあるのです。

Aman Kyoto, Japan's Secret Forests

都心に生まれた森の秘話

‘大手町の森’は東京駅からもわずかな距離にあります。オーナーである「東京建物」と環境専門家らとの森創造のプロジェクトは、都会を離れた千葉県君津の森に始まりました。都心に見合う木々の選択、樹齢の多種多様、落葉樹と常緑樹の混在(落葉樹7割)などを鑑み、大手町周辺に見られる緑地環境とは異なり、植栽の剪定や手入れをしない自然の森のままを目指しました。君津の森で3年の検証をかけながら大切に育てられた森は、その後、都心に移される時が来ました。木々だけではなく、深さ2mもの土ごと掘り起こしての大掛かりな森の移植が実施されたのです。専門家(D+M)の責任者から、当時、こんな浪漫が語られました。「この森の土からは蝉も出てくるし、ミミズもいるだろう。この森が都心でどう自然に育つか楽しみでもあります」と。こうして‘大手町の森’の未来へ向かうストーリーが始まりました。

大手町の森の放つ役割

大手町タワーの麓に広がる現在の‘大手町の森’は、ただ、涼し気な木陰を造るためではありません。もちろんそれらを踏まえて、いずれビルのガラス張りの地下から地上を見上げた時、窓に映る森を見せることで、ビルの地下空間を自然光で明るく豊かな空間にしたい、周辺のヒートアイランド現象を緩和し、水害防止にも役立てるなど、社会的な環境保全に役立つ自然の森でありたいとの願いから、このプロジェクトが組まれました。

都心に移された当初、幼い印象だった森の姿は、今では青々とし、大きく成長したたくましい森に育ち、現在は鳥類約13種、バッタ類15種、チョウ類は何と34種も確認されるというから驚きです。さらに驚きは東京都のレッドリスト(希少種)に記載の種も確認され、常落樹混合の若い森は確実な成長が実証されました。森を住処とする小動物や様々な生き物が行き交い、都心に於いても生物多様性が実際に証明されたのです。

Aman Tokyo Cafe

森に佇むザ・カフェ by アマン

ちょうど今頃の新緑の時期、カフェの建物は森の中の一軒家のように豊かに育った木々に包まれます。2014年12月のアマン東京開業時、森は葉を落とした冬の情景でした。その森に佇むザ・カフェ by アマンの開業は翌年の6月。森の木々は一斉に若葉が芽吹き、新緑のあまりに瑞々しい香りに何人もの人が足を止めてしまうほど。緑濃い夏にはまるで軽井沢にいるようだと空気の爽やかな印象を語る声も聞こえてきました。秋には葉が一斉に赤や黄色に色づき、毎年、ガラス張りのカフェ内は紅葉に染まり、森との一体感を楽しみたいとテラス席はいつにも増して賑わいます。

 

森の声を聴き響き合う天空のアマン

アマン東京の33階ラウンジの中央にも、森に呼応するかのように、季節を象徴する自然木が飾られます。アマン東京を創り上げた建築家ケリー・ヒルは、生前、こう語ってくれました。「冬期の太陽がアマン東京のインドアプールにどう映り込むか、大手町の森に佇むガラス張りのカフェにどう差し込むか、楽しみだね。デザインの裏には逸話が隠されているよ」と。その逸話ももう聞けませんが、今では美しく成長した森の木漏れ日に包まれるカフェや、アマン東京の天空のプールに差し込む‘冬の陽ざし’に、ケリーはきっと目を細めていることでしょう。