密やかな森の庭

ホテルジャーナリスト せきねきょうこ

理想郷に生まれたアマン京都 

江戸の初期まで歴史を辿れば、アマン京都が佇む鷹峯エリアは、敷地は琳派の創始者である本阿弥光悦が徳川家康からこの地を拝領し、芸術文化の一大拠点‘芸術村’として繁栄させ脚光を浴びたという事実が残ります。昔からこの地には‘特別’な運命をたどる独特の雰囲気が宿っていたのかもしれません。この森の庭には、京都を象徴するイロハモミジや樹齢100年を超える北山杉があり森を支えています。敷地は山を含め約32万平米、この森と庭がアマン京都の舞台となりました。

Aman Kyoto Aman Kyoto, Japan Aman Kyoto Stairs

蘇った森

洛北のアマン京都に到着し、重厚な木造の門を通りぬけると、まるで時が止まったかのような別世界が広がります。何度訪れようと、その都度、身の引き締まる思いがする森の庭ですが、同時にアマン京都の掲げる5つのエレメント「石、森、水、光、苔」が美しく輝く情景に目を奪われるのです。特に秋、深紅に染まるモミジは石畳を歩く人々の姿まで赤く染めてしまうほど。しかしこの森と庭は、当初、「長期にわたって人の手を離れ放置されていた」(「D+M」関係者談)といいます。巨石も含め石は山積みのまま、苔もあるべき姿ではなく、さらに植物類の手入れも行き届いていなかった庭を、剪定や間伐によって適正に整える一方、滞在ゲストのプライバシーを護るため、必要に応じて葉の落ちない常緑郷土種を選んで補植されました。こうして細心の注意と気の遠くなるような長い年月をかけて蘇ったアマン京都の森の庭。クスノキなどの常緑樹、アセビやツバキなど低木も育ち、外を散策する人影も気にならず、生け垣として、室内に居ながら緑との一体感も感じられるのです。

 

森が受け継ぐアマンの美意識

アマン京都のシグネチャーツリーは「モミジ」(イロハモミジ)で、2000本から3000本も植樹されています。森が深紅や黄金色に染まる秋にアマン京都を訪れる人は幸運です。モミジは散策するゲストの頬を赤く染め、絵葉書のような写真映えです。また石畳を歩きながら、思わず足を止めるほど存在感を示しているのがここそこに見られる苔です。古くから自生していた苔に加え、ブレンドした苔を富山県内で培養し移植した苔類は存分に湿気を纏い、青々と輝いています。アマン京都の開発の際、敷地内に生きる元の樹木はできる限り残すことが約束され、最終的に伐採された木は、わずか十数本という驚きの数字。しかもそれらは大切に保存され、庭のベンチや部屋番号を記載するキーホルダーの木版部に再利用されています。ここにもアマンらしい感性が息づいています。

 

ケリー・ヒルとアマン京都

構想約20年、建築に約10年もかけたリゾート「アマン京都」。森や山を含む広大な敷地にわずか26室からなる限られた客室棟が造られ、森の庭に溶け込むような意匠にすることもケリーのこだわりでした。室内はアマン京都オリジナルの特注家具類を設え、シンプルでミニマル、洗練されたラグジュアリー感は、アマンを造り続けたケリー・ヒルの真骨頂と言えるでしょう。白木の美しい内装の部屋は、泊まってみてこそ居心地の良さが倍増します。華美な飾りは一切ありません。アマン京都の入り口近くに建つザ・リビング パビリオン by アマン前には完成を見ることなく逝去されたケリーの功績を湛え、敬意と深い感謝を表し、「ケリー ヒル ガーデン」と名付けられた苔の庭が広がります。この美しい庭はケリーを愛おしむすべての人からのケリーへのオマージュであり、アマン京都はケリー・ヒルの思いが詰まったレガシーでもあるのです。